安全対策委員会

委員長ご挨拶

この度、安全対策委員会の委員長として二期目を拝命いたしました、灘吉と申します。

高気圧酸素治療における「安全文化の醸成」という重責を担うにあたり、身が引き締まる思いでございます。安全対策委員会の主な役割は、安全基準の見直し、インシデント情報の収集、教育コンテンツの提供、そして認定施設の審査など多岐にわたりますが、一つひとつの業務に真摯に取り組んでまいる所存です。

皆様からお寄せいただく貴重な情報こそが、私たちの活動の源となります。コミュニケーションを何よりも大切にし、皆様のご意見に真摯に耳を傾けながら、高気圧酸素治療の安全性を一層高めていけるよう、精一杯努めてまいります。

何卒、皆様のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

安全対策委員会委員長 灘吉 進也

委員会

委員長 灘吉 進也
委員 髙倉 照彦
折原 和広
寺田 直正
坂上 正道
鈴木 義博
羽生田 義人
上野 圭
清水 徹郎
藤田 智
柳下 和慶

○任期:2025年6月26日〜2027年社員総会まで

安全講習(YouTube)

  • 高気圧酸素治療の安全基準【第一種装置に係る概説】
  • 高気圧酸素治療の安全基準【第二種装置に係る概説】
  • HBOの事故事例×安全管理

高気圧酸素治療に関するQA

『植込み型心臓電気デバイス(CIEDs)装着患者に対する高気圧酸素治療(HBO)について』
高気圧酸素治療(HBO)の適応患者の中に、ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)等を装着している方が含まれる場合があります。学会としてのガイドラインや推奨事項がございましたら、ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。

1. HBOの実施可否について

現在、日本国内で流通している植込み型ペースメーカーやICDのほとんどは、高気圧環境下でも正常に作動するように設計されていることが多いため、これらの機器を装着されている患者へのHBO実施は、基本的に可能であると考えられています。
しかし、ごく一部の古い機種や特殊な機種では、高気圧環境下での動作に影響が出る可能性が指摘されていることも事実です。
そのため、治療を実施される前に、必ずメーカーまたは代理店に当該機器の耐圧性能をご確認いただくことを強く推奨いたします。

2. 安全な施行のための推奨条件

当学会では、ペースメーカーやICD装着患者へのHBO実施にあたり、具体的な数値(最大圧力、治療時間など)を定めた推奨条件やガイドラインは設けておりません。
安全基準においても詳細な基準を明記していないのは、機器の機種、患者様の病態、施設の設備など、様々な要因によって最適な対応が異なるためです。
したがって、最終的な判断と対応につきましては、専門医および指示医のご判断のもと、各施設においてご検討いただくようお願いしております。

3. ICDの安全性評価について

ICDの除細動機能や感知機能に対する安全性評価についても、当学会として統一的な見解やガイドラインはございません。
HBOは電磁気的な影響を与えるものではないため、除細動機能や感知機能に直接影響を与える可能性は低いと考えられます。
しかし、圧力変化や酸素分圧の変化が、機器のセンサーや回路に間接的に影響を与える可能性も否定できません。
この点につきましても、やはりメーカーまたは代理店に確認を取ることが、最も確実な安全対策となります。

【まとめ】

安全対策委員会としての見解は以下の通りです。

  • CIEDs装着患者へのHBOは可能ですが、個別の機器に関する耐圧性能については、必ずメーカーまたは代理店にご確認ください。
  • 当学会として、具体的な数値や条件を定めたガイドラインや推奨事項はありません。
  • 最終的な判断と対応は、各施設の専門医および指示医の裁量に委ねられます。
患者の安全を最優先に、慎重な対応をお願い申し上げます。

フリースタイルリブレセンサー(グルコースモニタシステム)の高気圧酸素治療装置への持ち込みついて

フリースタイルリブレの高気圧酸素治療装置内での使用は禁止となります。
フリースタイルリブレは、酸化銀電池、基盤、センサ類で構成されています。
アボットジャパンに対する問い合わせの結果、高気圧酸素治療装置内での使用については、「テストしていないので使用不可」との回答が得られました。

Undersea&Hyperbaric Medical Society(UHMS)も同様の見解を示しています。
本学会としても、当該機器に関する安全性を示すデータがないため使用は避けるべきと考えます。
安全基準第36条および38条を遵守をお願いします。
高気圧酸素治療の安全基準

高気圧酸素治療において、下着や下着に含まれる素材はどこまで許容されるのでしょうか?

安全対策委員会の見解としては、『安全基準:第36条 3)衣類の制限にある通り、羊毛製品および合成繊維製品の着用は禁止であり、帯電防止能のある木綿または同等以上の衣類、あるいは帯電防止加工を施した衣類を着用すること』が基本的な対応方針となります。
安全基準において、具体的な数値等の詳細な基準は明記しておらず、最終的な対応については、専門医および指示医のご判断のもと、各施設においてご検討いただきますようお願い致します。
第1種装置においては、点火源を絶対に持ち込まないことが最優先事項であり、静電気の発生を可能な限り排除する必要があります。治療時の衣類については、安全性を最優先にご判断ください。

患者の尊厳に配慮しつつ、安全性を確保するための対応として、以下に要点をまとめます。

  • 代替品の提供
    最も確実な対応は、治療前に綿100%(ゴム部分も含めて綿または天然素材)の下着を施設で準備し、患者に着替えていただく方法です。これは、患者の私物を制限するのではなく、安全性確保のための代替品を提供するという形をとることで、患者の尊厳に配慮した対応が可能となります。複数の清潔な代替品を用意し、患者が選択できるよう配慮することも有効です。
  • ゴム部分の材質確認とリスク評価
    ポリエステルと一口に言っても、その混紡率や織り方により帯電性が異なります。
    可能であれば、該当する下着のゴム部分のポリエステル混紡率を確認し、非常に微量である場合や、ゴム部分が肌に直接触れる面積が広い場合などについて、リスクが許容範囲内かどうかを、専門医や指示医と相談の上ご判断ください。
    高気圧酸素治療安全協会が推奨する導電性繊維を織り込んだ専用治療着を使用している場合は、下着の上からこの治療着を着用することで、さらに帯電性のリスクを低減できると考えられます。
  • 施設としての明確な基準設定の重要性
    「全体の何%まで合成繊維が含まれていれば不可とするか」といった数値的な基準は、安全基準では示されていません。しかし、各施設が安全性を確保するためには、次のような明確な内部基準を設けることを推奨します。
    • 患者への衣類着用に関する明確な説明
      治療前に、着用可能な衣類の材質について具体的に説明を行い、必要に応じて代替品を提供する旨を事前に周知します。
    • リスク評価に基づいた許容範囲の設定
      専門医、HBO装置の操作者、医療安全管理者などと協議のうえ、帯電性に関するエビデンスや過去の事例を踏まえて、合成繊維の最小限の含有率や許容される部位についての内部基準を策定します。
    • 例外規定と対応手順の整備
      基準を満たさない衣類を着用している患者への対応手順(例:代替品の提供、着替えの支援など)をあらかじめ整備し、スタッフ間で共有します。

最終的な判断は、貴施設の専門医および指示医の裁量に委ねられますが、上記のような具体的な対応策や内部基準を検討することにより、患者の安全と尊厳の両立を実現できる体制づくりが重要です。

【参考資料】

日本高気圧環境・潜水医学会/高気圧酸素治療安全協会:『高気圧酸素治療のQ&A特集 改訂版(平成5年~平成20年集)』2009年 VOL.18 No.2(通巻第35号)平成21年3月 p.16より

  • 第1種装置内で出火した場合、いかなる物質も燃焼する可能性があります。
  • 要は点火源を絶対に装置内に持ち込ませないことが重要です。
  • 静電気防止のため、治療装置本体および患者自身を完全かつ確実に設置(アース)し、発生した静電気が蓄積されて着火のエネルギーとならないよう、これを完全に阻止することが必要です。
【HBOによる眼内レンズの影響について】
現在、HBOを行っている患者様が白内障の手術を検討しています。HBOの治療による、眼内レンズへの影響はありますでしょうか?

HBO装置内への持ち込み物品ないし器材においては、「安全基準」でも厳しく制限しておりますが、その基準を個々の製品ないし物品を明確に示すことは困難です。
HBOが眼内レンズに与える影響については、基本的に大きな影響はないと考えられますが、最終的な対応につきましては、専門医および主治医にご相談いただいた上で、貴施設の判断に基づきご検討いただきますようお願い申し上げます。
尚、安全基準第4条および36条を遵守してください。

【刺青のある患者に対する高気圧酸素治療について】
高気圧酸素治療(HBO)を希望されている患者様で40年前に入れた刺青が太ももにあります。 施設によっては治療を行っていないという施設もあり、刺青がある場合でもHBOを行っても良いのかご回答頂けますでしょうか。

当会では、HBOと刺青との安全性に関するデータは、現時点では十分な情報を有しておりません。刺青を有する患者に対するHBOにおいては、火災や刺青部分の変性の可能性について十分な注意を払う必要があります。そのため、患者には事前に十分なインフォームド・コンセントを実施し、治療後における刺青部分の容姿変形や知覚異常が生じるリスクを最小限に抑えることが重要です。 以下の情報を参考に、最終的な対応につきましては、専門医および主治医にご相談いただいた上で、貴施設の判断に基づきご検討いただきますようお願い申し上げます。

参考情報①

Q 刺青に対して問題は?
A 刺青には属が使用されていますが、MRIの禁忌事項とHBOでは考え方が若干異なります。 問題となるのは、自然発火するか、燃焼するかどうかです。金属の中には発火しやすいナトリウム(Na)やマグネシウム(Mg)などがありますが、これらは体内に入れることで刺青での使用が不可能とされています。
一方、刺青に使用される金属は、安定した重金属(水銀、鉛、カドミウム、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、アルミニウム、チタン、銅、鉄、バリウムなど)であり、体内に入れても発火する可能性は低いと考えられます。 また、MEDLINEで「tattoo」と「hyperbaric」または「oxygenation」を用いて検索したところ、該当する情報は見つかりませんでした。